外国の企業が日本に進出するときの方法は、(1)日本子会社を作る、(2)日本に支店を作る、の2通りです。(2)の外国法人の日本支店の法人税確定申告は、会社全体ではなくその会社のうちの日本支店だけという特殊なものですので、慣れていないと細々とミスをしてしまいがちです。確定申告書に添付する資料でさえ、日本法人とは違うのです。
法人税確定申告書の添付書類
日本法人の場合
日本法人の場合、確定申告書に添付する書類は、以下の通りです。
- 貸借対照表
- 損益計算書
- 株主資本等変動計算書
- 勘定科目内訳明細書、事業等の概況に関する書類など
外国法人の日本支店の場合
外国法人の日本支店の場合、確定申告書に添付する書類は、以下の通りです。
- 外国法人の貸借対照表
- 外国法人の損益計算書
- 外国法人の株主資本等変動計算書
- 日本支店の貸借対照表
- 日本支店の損益計算書
- 日本支店の勘定科目内訳書、事業等の概況に関する書類など
まず、注目してほしいのは上の3項目です。日本で法人税が課税されるのは日本支店の所得のみにもかかわらず、外国法人全体の貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書の添付が必要とされています。
外資系企業の経理担当者からすれば、「日本支店のみに課税されるのになぜ必要?」と思ってしまうらしく、資料請求してもなかなか出してもらえないことがよくあります。そして、慣れていない人が外国法人の日本支店の確定申告を担当すると、外国法人全体の貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書が添付されていないということがあるので要注意です。
次に注目してもらいたいのが、日本支店で必要な決算書は貸借対照表と損益計算書の2種類であることです。株主資本等変動計算書は添付する必要ありません。よくよく考えれば、当たり前のことなのですが、申告の対象は支店であって会社ではありませんから、支店に株主資本等変動計算書があるはずないのです。
外国法人の日本支店の記帳代行を行っている会社が、
「日本支店の決算書です」
と言って、貸借対照表と損益計算書と株主資本等変動計算書の3つを出して来たら、その記帳代行会社を利用するのはやめましょう。
外国法人の日本支店の貸借対照表
外国法人の日本支店の記帳代行を行っている会社が出してきた貸借対照表が次のような決算書を出してきたとしましょう。
日本の会計ソフトを使って記帳代行を行い、そのまま出力すると、上記のような貸借対照表になります。しかし、この貸借対照表には、問題点があります。
日本支店の貸借対照表ですから、純資産の部は、「資本金」、「資本剰余金」、「利益剰余金」といった項目にはなりません。
正しくは、以下の通りとなります。
支店の純資産は、本店勘定です。
これは日商簿記2級などで学ぶ項目ですので、日本支店の純資産の部を資本金、資本準備金、利益剰余金とするような記帳代行業者には任せてはいけないですね。
外国法人の日本支店になぜ外国法人全体の決算書の添付が必要か?
日本支店の利益に対して課税するのに、なぜ外国法人全体の決算書が必要ななのでしょうか。理由の一つとして、外国法人全体の規模の大きさによって、税率や経費とすることができる金額に違いが生じるという点が挙げられます。
中小企業の特例が使えるかどうか?
日本法人の場合、資本金が1億円以下の法人(資本金5億円以上の大会社の100%子会社などは除きます。)については、年800万円以下の所得に対しては法人税の税率が15%に軽減(通常の法人税の税率は2016年4月1日以後開始事業年度:23.4%、2018年4月1日以後開始事業年度:23.2%)されます。
外国法人の日本支店がこの軽減税率を使えるかは、その外国法人の資本金額を決算日レートで円換算した金額によって判定します。これ以外にも、外国法人の日本支店が中小企業の特例が使えるかどうかの判定をする場合に、この円換算した資本金を用います。
交際費の損金不算入
日本法人の場合、交際費については原則、損金不算入(会社の経費にならない)とされていますが、資本金が1億円以下の法人(資本金5億円以上の大会社の100%子会社などは除きます。)については、年800万円以下の交際費については損金になります(会社の経費として税金の負担が軽くなります)。
外国法人の日本支店の場合、この1億円を超えるかどうかの判定は、外国法人の資本金で行うのではありません。外国法人の資本金のうち日本支店に対応する金額を計算して按分計算をします。按分計算は資産規模を用いて行いますので、外国法人全体の貸借対照表上のの資産の帳簿価額の情報が必要になります。
寄附金の損金算入限度額の計算
寺社への寄附などの寄附金とされる金額は、基本、会社の経費にはならない性質のものですが、資本金等の額の規模や所得の規模に応じて、その一部を損金とする(会社の経費として税金の負担が軽くする)ことが可能です。
外国法人の日本支店の場合、その資本金等の額の規模は、外国法人全体の資本金等の額のうち日本支店に対応する部分の金額になります。ここでも、外国法人全体の貸借対照表上の資産の帳簿価額の情報が必要となります。
申告期限の延長をしよう
外国法人の日本支店の確定申告であっても、外国法人全体の決算書が必要とのことで、気をつけないければならないことがあります。
それは、日本の確定申告期限が諸外国に比べて短いことです。
日本では事業年度終了後2か月以内に法人税の確定申告をしなければなりません。しかし、国によっては事業年度終了後6月以内に定時株主総会を開くというところもあります。そうすると、事業年度終了後2か月では決算が確定していないという事態が生じてしまいます。
そこで、行っていただきたいのが「申告期限の延長」です。外国法人の本国での決算が確定する前に日本で確定申告しなければいけない、なんてことのないよう、「申告期限の延長」の申請を必ず行うようにしましょう。
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【編集後記】
昨日は、相続税の確定申告に、外資系企業の12月決算の確定申告、外国法人の日本支店の確定申告書チェックとペーパーワーク中心の一日でした。ランチは、寒さに負けないよう、カラシビつけ麺 鬼金棒(キカンボウ)にてパクチーカラシビつけ麺を注文。
【昨日の一日一新】
パクチーカラシビつけ麺
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