2016年10月31日、クラウド型会計ソフトで有名なfreee(フリー)が新サービス「クラウド申告freee」を発表し、その記事が日経新聞に掲載されていました。これにより、freeeはバックオフィス業務、記帳、決算、税務申告までのクラウド一気通貫サービスの提供を行うことになります。
この新聞報道、記事を読んで「?」と思う点がいくつかありました。
※ 申告freeeはすでにリリースされており、下記の内容についてすべて解明済みですが、プレスリリース時には、その内容だけだとさっぱりわからないよという趣旨で書いた記事です。(2017年12月6日追記)
年間利用料20万円前後は既存のパッケージ型ソフトよりも安い?
新聞記事では、年間利用料20万円前後で既存のパッケージ型ソフトよりもコストが抑えられるとのことでしたが、この20万円が会計ソフト込みの値段なのか、それとも申告ソフトだけの値段なのか、いまいちわかりませんでした。会計ソフト込みであればリーズナブルといえますし(とは言っても抜群に安いとは思えない)、申告ソフトだけであればむしろ高い気もします。
freeeが提供するクラウド申告freeeの全体像をみると、対応している範囲は下記の通りです。
- 法人税申告書
- 消費税申告書
- 勘定科目内訳書
- 事業概況書
- 電子申告アプリ
上記について、年間利用料を他社のソフトと比較してみました。
達人シリーズ※1 | JDL ※2 | 申告奉行 ※3 | |
法人税申告書 | 37,100円 | 14,000円 | 280,000円 |
消費税申告書 | 17,100円 | 8,000円 | 勘定奉行の 機能 |
勘定科目内訳書 事業概況書 | 21,900円 | 10,000円 | 110,000円 |
電子申告アプリ | 36,000円 | 10,000円 | 申告奉行に 付属 |
合計 | 112,100円 | 42,000円 | 390,000円 |
※1 Standard Editionのダウンロード版
※2 IBEX クラウド組曲Major
※3 申告奉行i10スタンドアロンモデル
年間20万円というのは、会計freeeからクラウド申告freeeまでのパッケージでの1社あたりの値段なのか、報道の記事からは読み取るとができませんでした。もし、会計ソフトと込みでの値段ということであれば、リーズナブルと言えるでしょう。
ただ、1ライセンスにつき1社までということであれば、会計事務所にとっては高めの値段設定です。上記の達人シリーズの場合、1ライセンスで法人の登録は無制限ですから、1ライセンス当たりの会社数が多ければ多いほど、クラウド申告freeeよりも達人シリーズのほうが安いといえるでしょう。
※ 1会計事務所につき20万円ということであり、ユーザー数が多くても追加ライセンス費用は必要ないということですので、人数の多い会計事務所であればあるほどお得です。逆に、1社で使う場合やひとり税理士の場合にとっては、高いといえるでしょう(2017年12月6日追記)。
決算データから税務申告書に必要なデータを自動抽出&数値をわざわざ入力する手間が省ける
これは当期純利益や法人税、住民税、事業税などの税金勘定や引当金などの全額否認の項目を自動で処理してくれるものなのでしょうか。
税金勘定を正確な金額で計上する場合、一般的には下記の流れで処理をします。
- 申告ソフトに税引前当期純利益を入力して法人税、住民税、事業税を算出
- 算出した法人税、住民税、事業税の数値を会計処理に反映
- 税金勘定反映後の会計処理に基づき、申告書データの入力を修正
これを自動でやってくれるのでしょうか。
記事の内容だけではどこまで対応しているか不透明ですが、とりあえず楽しみに待ちたいと思います。
ちなみに、税会一致で処理している会社は「数字をわざわざ入力する手間」と言えるほどの税務調整はありませんが…。
年間費用が100万を超える場合もあるとされ、企業の負担
どの程度の規模の企業を指しているのでしょうか。現状、freeeがターゲットとしている規模の企業では、年間費用が100万円を超えるケースはそう多くはないと思います。100万円が負担かどうかというのは、企業規模によっても大きく異なりますので、金額だけ捉えて「企業の負担になっていた」という論じ方には違和感を感じざるを得ません。売上が数千億円という企業から見れば、その取引数からいって100万円しかかけていなかったら適正な税務申告を行うのは困難ですし、売上1,000万円で100万円もかけていたら、顧問税理士の報酬は高すぎます。
クラウド申告が普及したら何が起こるか?
簿記の知識なしで会計freeeで記帳ができて、税務申告も知識がなくてもできてしまうということがあり得ます。ただ、問題はそのようにして作成された財務諸表や税務申告が適正なものになっているのかというところが問題となるでしょう。
パッと見、何となくちゃんとしたものができているように見えるかもしれません。ただし、正確な知識なしで正しい財務諸表や税務申告書を作れるかというと、現状のソフトではそこまで対応できるものはありません。たとえ対応できたとしても、その機能を十分に使いこなせるだけの知識が必要ですし、決算内容や税務申告の内容をしっかりと説明できることも必要になります。
クラウド会計、クラウド申告で見た目ちゃんとしてそうなものは作れるかもしれませんが、知識なしで作ったものには大きなリスクがあります。専門家と相談しながらクラウドソフトを利用し、手間暇を削減できるツールとして活用するようにしましょう。
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【編集後記】
会計・税務の新聞記事は、専門家から見ると何を言っているのかよくわからない記事が散見してます。きっと、他の分野でもその分野の専門家からみるとそういうことは多々あるのでしょう。しかし、素人からみると何となく理解した感じになってそれに気づかないと思うと、新聞記者の記事を書くテクニックは読者の希望に沿うものなのでしょう。一部の専門家に向けてではなく、素人に向けて理解した気になるように書く、それがプロの技なのでしょう。
【昨日の一日一新】
タワー・グランディア
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