税理士として、他の税理士からの変更を引き受ける時やセカンドオピニオンとして財務コンサルティングを行うときに会計データをExcelでもらえないことがあります。
会社の業績を表す会計データなのに、会社ではその情報を紙でしかもっておらず、自分で分析をすることができません。
銀行員に
「社長、今月の売上はいくらですか?」
と聞かれても、
「税理士に聞いてみないとわかりません」
と答える経営者もいらっしゃるようです。
会社の健康状態を表しているのが会計データです。
会社が自分でちゃんと管理できる体制をとることが大切です。
法律で考える、会社が会計データを持つべき理由
会社の会計データは誰が持つべきか、まずは、法律をみてみましょう。
まずは、会社法。
第432条 会計帳簿の作成及び保存
株式会社は、法務省令で定めるところにより、適時に、正確な会計帳簿を作成しなければならない。
2 株式会社は、会計帳簿の閉鎖の時から10年間、その会計帳簿及びその事業に関する重要な資料を保存しなければならない。
会社法によると、会社が会計帳簿を作成し、10年間保存する義務があります。
では、次に法人税法をみてみましょう。
法人は、帳簿(注1)を備え付けてその取引を記録するとともに、その帳簿と取引等に関して作成又は受領した書類(以下「書類」といい、帳簿と併せて「帳簿書類」といいます。)を、その事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から7年間(注2)保存しなければなりません。
また、法人が、取引情報の授受を電磁的方式によって行う電子取引をした場合には、原則としてその電磁的記録(電子データ)をその事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から7年間保存する必要があります。
ただし、その電磁的記録を出力した紙によって保存しているときには、電磁的記録を保存する必要はありません。
- (注1) 「帳簿」には、例えば総勘定元帳、仕訳帳、現金出納帳、売掛金元帳、買掛金元帳、固定資産台帳、売上帳、仕入帳などがあり、また、「書類」には、例えば棚卸表、貸借対照表、損益計算書、注文書、契約書、領収書などがあります。
- (注2) 平成23年12月税制改正により青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越期間が9年とされたことに伴い、平成20年4月1日以後に終了した欠損金の生じた事業年度においては、帳簿書類の保存期間が9年間に延長されました。
また、平成27年度及び平成28年度税制改正により、平成30年4月1日以後に開始する欠損金の生ずる事業年度においては、帳簿書類の保存期間が10年間に延長されています。国税庁ホームページより引用
少し長いですが、ポイントは赤字部分です。
まとめると、以下の通りです。
- 法人が帳簿の備付け、記録および帳簿書類の保存義務がある
- 帳簿書類の保存期間は確定申告期限から7年。ただし、赤字の事業年度については確定申告期限から10年(平成30年3月31日以前開始事業年度は9年)
以上より、会社法からも法人税法からも、会計帳簿は会社で持つべきということになります。
もちろん、これは会計帳簿ということですから、会計事務所がプリントアウトしてくれた総勘定元帳を紙でもっているということで構いません。
ただし、会計事務所がなくなってしまったらどうなるのでしょうか。
- 税理士が突然亡くなってしまった
- 税理士が夜逃げをしてしまった
- 認知症になってしまった
- 会計事務所のパソコンやサーバーが盗難にあってしまった
- 会計事務所のデータがウイルスなどですべてなくなってしまった
といったトラブルがないとは言い切れません。
すべて任せっきりにするよりも、バックアップとして会計データを会社でも保存しておくことでトラブル時の被害を最小限に抑えることができます。
会社が会計データをもつことでできるようになること
いつでも会社の状況を把握できる
会社が会計データを見ることができれば、次のようなことはパソコンを開けば把握することができます(ちゃんと会計データの入力をしていればですが)。
- 今の売上はどのくらいか
- 経費を使いすぎていないか
- 利益はちゃんと出ているのか
- 前年同月や先月と比較して業績はどうなのか
- 銀行からの借入金の残高はどのくらいか
財務分析ができる
会計ソフトを購入している場合、会計ソフトから会計データをエクスポートしてExcelとして使うことで、財務分析を行うことができます。
月次データを利用して予算を策定し、その後、実際の発生額と照らし合わせながら予実分析を行うのに活用できます。
単に税務申告だけの会計を行うのではなく、経営分析に役立つように管理会計を行っていれば、会計データを見ながら自社の強化すべきポイントなどが見えてくるようになります。
会社が会計データを持つ方法
会計ソフトを購入して管理
会社が会計データをもつ最もお勧めの方法は、会社が会計ソフトを購入し、そのデータを会計事務所と共有する形で利用するという方法です。
会計ソフトを持つ以上、会計データの入力を自分が見やすいように行うことができます。
会計事務所への記帳代行の場合、税務申告目的での入力になるのが一般的ですので、管理目的としては不十分な場合があります。
自分がどういった情報を知りたいか意識しながら勘定科目や補助科目の設定、会計処理の流れを構築していくことで、経営に生かせる会計データの作成が可能になります。
会計事務所からデータを受け取って管理
会計データの入力はやりたくない、記帳代行は丸投げしたいという場合でも、会計事務所から会計データを貰うことは可能です。
税理士との解約間近に次の会計事務所への引継ぎのため、会計データを紙ではなくエクセルでもらおうとすると断られることがあります(多分、嫌がらせでしょう)。
そういうことがないように、会計データに関しては初めからExcelやPDFでもらうようにしておくとよいでしょう。
知りたい情報を探すのに、紙をパラパラめくってというのでは、時間がかかってしまいます。
検索しやすいよう、データでもらうように心がけましょう。
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【編集後記】
当事務所では税理士変更でご契約を頂く際、会計データをExcelでもらうことが出来たケースは全体の半分程度です。
会計事務所は当然のことながら、会計ソフトで顧客の会計データを管理しているのですが、会計データを渡していないことが多いようです。
電子申告をしているにもかからず、お客様にはプリントアウトしたものしか渡しておらず、PDFファイルを送っていないようでした。
そして、プリントアウトした書面に自署押印をしているのですが、これが税務当局には何の効力も有していないということをお客様は理解していませんでした。
(よくわからないが、税理士に署名押印するように言われたからしていただけとのこと)
手続きが何のために行われているか、ちゃんと説明しないとですね。
私も気を付けなければ…。
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